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第44章 -Laundream- by しーま
その意味深な言葉を最後に、次の、その次の金曜日も、あの人はコインランドリーに来なかった。
別に、約束はしてなかったんだけど。
習慣になりつつあったことが急になくなるのは、なんか寂しくて。
心のどこかで、金曜日にあの人に会えるのを楽しみにしてたから。
ベンチに座り、音を立ててグルグル回る箱をぼんやりと眺める。
そういえば、名前すら聞いてなかったな…。
こんな時、一歩を踏み出せない自分を悔やむ。
俺に足りないものは、きっとこういうとこなんだろう。
***
12月24日。
街はすっかりクリスマス一色の中、俺はいつものように家路に着こうとしていた。
珍しく朝から雪が降り積もり、今年はホワイトクリスマスです、なんて天気予報で言ってたっけ。
イルミネーションと、雪と、恋人たち。
無敵なシチュエーションを前に、ここにひっそり歳を重ねたヤツがいるなんて、誰が想像するだろう。
雪に足元をとられながら、ひたすら家路を急ぐ。
曲り角に差し掛かった時、凍った雪に足を滑らせて、盛大に転んでしまった。
尻もちをつく俺をよそに、行き交う人々は哀れんだ視線を送るだけ。
痛さや、冷たさや、恥ずかしさや、
色んな感情が一気に込み上げて、なんだか泣けてきた。
なんだよ、これ。
もう…最悪な誕生日だ…。
「…大丈夫ですか?」
ふいに聞いたことのある声がして、顔を上げると。
「あ、」
「あ…」
あの人がサンタの格好で、ネカフェの看板を片手に、屈んで窺い見ていた。
「…なに転んでんの。誕生日に」
そう言うと、困ったような笑みを浮かべて、俺に手を差し伸べた。
ぎゅっと掴んだ手の温もりに、堪らず涙が溢れてくる。
「えっ、どした?そんな痛かった?」
周りを気にして慌てる姿がなんかおかしくて、泣き笑いながら立ち上がった。
ーそう、あの日の誕生日は、サンタがプレゼントだったんだ。