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第58章 楽園 by つぎこ







「…そろそろ時間だよ。」

翔くんの腕の中。ポツリと呟いた。


出発の朝。玄関先で、腕の中の俺を一向に離そうとしない翔くん。

だけどもう、飛行機の時間が迫ってる…。


翔くんは、もう一度だけ、俺をぎゅっと強く抱きしめてから、名残惜しそうに腕を緩めた。


海外での仕事に向かう翔くん。

今年こそ一緒に休暇を過ごそうって、約束してた。

仕事とはいえ、その約束を反故にしてしまったのが、翔くんには心残りみたいだ。


「…ごめんね。埋め合わせ、するから…。」

「…仕事だもん。仕方ないよ。」

そう。仕事だから、仕方ない…。


「…行ってくる。」

「…うん。気を付けてね。」

離れるのは、ほんの少しの間…。

そう自分に言い聞かせると、寂しさをぐっと堪え、笑顔で見送った。




ひとり残されてしまった、少し遅めのお正月…。

約束、すごく楽しみにしてたのに…。


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