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第79章 春宵 by つぎこ







この先ずっと…。


なんてね、それは違ってた。



芽生えてしまった騒めきに、覗いてしまった日常。

智はベンチに座り、ぼーっと桜を見上げてて…。

桜の下で、誰かを待っていた。

毎日毎日、待っていた。


俺たちが出会った場所は、智の大切な場所だった。

俺の知らない、それが智の日常、だった…。



智は何も変わらなくて…。

いつもと同じように、緩い笑顔を向けてくれて…。


柔らかな笑顔に絆され、虜になって…。

知らず知らずのうちに、足元を掬われていた。


彼にとっての俺は、寝床でしかなかったのに…。

身勝手な庇護欲がフィルターとなって、見えなくなっていた。





そしてその日は、なんの前触れもなく訪れた。


するりと懐に入り込んで、するりとすり抜けて…。



ぽつり残されたスケッチブックには、満開の桜。


今宵もひとり、還らぬ人を待ちぼうけ…。



END

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