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aspirin snow

第4章 ***

それから一週間あまり。

それまでと変わらず、
昼下がりのひととき、
二人でコーヒーを飲みながら、たわいもない話をする。

二人の会話が途切れれば、
彼の鼻歌が、私の耳に静かに届いて、
二人の間の沈黙は、美しい旋律で満たされる。

そんなある日。

夜明けまでやむことのなかった雪が、
木々に雪の華を咲かせ、
雪雲の去った空から降り注ぐ日差しが、
雪野原をきらきらと照らしていた。


 「ちょっと、散歩に出てみようかな。」


いつものようにコーヒーをゆっくりと飲みながら窓の外を眺めていた彼から出た言葉は、私を驚かせるのに十分だった。

人との関わりを絶つように、冬のペンションを訪れ、
ここに来てからだって、ほとんど外に出ることはなかった。

いや、それどころか、部屋から出ることさえ少なかったのに。


 「ご案内、しましょうか?」


 「いいの?」


まるで私の言葉を予想していたかのような、そんな笑みを浮かべた彼が私を見る。


 「もちろん、です。
  雪に閉ざされたこのペンションで、私ができるおもてなしなんて、これくらいしかないですから。
  取って置きの場所に、ご案内します。」


 「それじゃ、お願いしよっかなぁ。」


彼はにっこりと微笑んだ。

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