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aspirin snow

第7章 ******

それから何度か部屋を訪れる私に。

彼はやっぱり何も言わなかった。


「もう来ないで」とか、「大丈夫だから、放っておいて」とか。
そんな言葉か彼の口から聞かれるかと思っていたけれど。

額に浮かぶ汗を拭っても、
吐き気に苦しむ背中をさすっても、
サイドテーブルに無造作に置かれた薬を飲むよう促しても。

彼の口から私を咎める言葉は出なかった。





二日後の朝。

彼のためにスープを煮込んでいるところに、
トトントトンと階段を下りる足音が聞こえた。


 「おはよう。」


彼の声は消え入りそうなほど小さかったけれど。

それでも彼の声を聞けたことに安心した。


 「身体はもう大丈夫ですか?」


 「ん。
  色々と…ごめんね。」


少しだけ、微笑む。


 「やっぱり東京の人には、
  こっちの寒さはこたえますよね。」


私も少しだけ、微笑む。


彼にコーヒーを渡し、
何事もなかったように。


これまでと何も変わらない空気の中、
たわいもない会話を交わし、
沈黙が訪れれば、
彼の鼻歌で満たされた。

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