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aspirin snow

第2章 *

 「都会の喧騒を離れて、非日常の中でゆっくり仕事したいっていう友人がいるんだけど。
  碧音さんのとこ、紹介してもいい?」


そんな電話がかかってきたのは。

もう紅葉の季節も終わり、
木々は冬の眠りにつこうとしているような。
そんな寂しい季節だった。


 「それは、かまわないけれど。
  ご存知の通り、ここはこれからの季節、本当に何もなくなってしまうわよ。
  この間、初雪も降ったし、後は雪に閉ざされるのを待つだけだけれど、大丈夫?」


田舎の小さな空港から、車で約3時間。

一番近いお店までだって、車で2時間近くかかるような、
そんな場所にあるこのペンションは。

私がひっそりと一人で営んでいる。

碧い湖のほとりに建つ、知る人ぞ知る、といえば聞こえがいいけれど、
わずかな常連さんがその美しい湖目当てに夏の間だけくるような、そんなペンション。

当然、一度にたくさんのお客さんを受け入れることはできなくて。

一度に一組しか泊まっていただくことはできないし、
湖の周りを散策する以外の観光というものがまったくないここを好んで来る常連さんは。

都会では味わえない静けさと、美しい空気、
そして、漆黒の夜空いっぱいに瞬く星たち。

それらに疲れた心を浄化してもらいたくて、ここにやってくる。

だから私は。

その時間と空間を提供するだけ。


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