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aspirin snow

第4章 ***

翌日から、彼はほとんど部屋からでなくなった。

昼下がり。
トトントトンンと階段を下りる彼の足音が聞こえ、


 「コーヒー、もらえる?」


コーヒーをゆっくりとすすりながら、外の世界を眺める彼の姿が。

一日の中で、私が彼を見かける唯一の姿であることも、少なくなかった。


 「雪は、いつごろ積もるの?」


 「もう、いつ根雪になってもおかしくない時期ですね。」


彼のための遅めの昼食を用意しながら、ちらちらと舞う雪に目をやる。


 「白銀の世界。
  憧れだなぁ。
  愛する人と自分だけの足跡が残る雪原って、
  ロマンチックじゃない?」


くるりと振り向いて微笑む彼は。
葉を落とした木々しかない寂しい景色が彼を包んでいるにもかかわらず。

ひどく美しく見えた。

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