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甘く、苦く

第62章 大宮【素直に】






「ただいまー…」


力なくそう言い、
玄関を開けた。

そしたら、
ふわりと香る優しい匂い。


…あぁ、きっとこれは
オムライスだ、なんてわかる。



「あ、ニノ、おかえりぃ。」


匂いと同じように
ふわりと笑うあの人。


「…ただいま。
料理なんて珍しいね。
どうしたの?
なんか悪いもの食べた?」

「違うしぃーっ!
ニノのバーカ。」


べえっと舌を出して
ケチャップで器用に
絵を描く智。

オツカレ、という言葉に
犬が描かれていた。



それだけで

胸がじんわりと熱くなる。


目頭が熱い。


「んふふ、ニーノ、お疲れ。」

「ん…」


今にもこの可愛いコイツを
食べたいが、
それを堪えてスプーンを
口に運んだ。


「どーぉ?
美味しくできたと思うんだけど?」

「ん、うまいよ。」


ウソなんかじゃない。


ただ、
ちょっとケチャップ
かけすぎかな、とは思った。
だってしょっぱいんだもん。


「…じゃあ今度は
ケチャップ少なめにする~」

「ん、よろしく」



食べ終わって
食器をシンクに運び
智を見つめた。

鼻唄なんか歌いながら
台を拭いてる。


その姿を見たら、
堪えてた愛おしさが
込み上げてきて。


もうどうしようもなく、
抱き締めたかった。



「……ニノ?」

「…バーカ
可愛すぎんだよ、お前。」



ちゅ、と音を立てて
キスをした。




そこからは、
特に覚えてない

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