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あなたの色に染められて

第24章 Persuade



『いい彼だったんだね。』

幸乃さんは璃子の背中を擦りながら

『いい恋したんだね。…安心した。』

優しく璃子の心に寄り添った。

京介さんを忘れるためだけの辛い恋ではなかったんだ。

だから 先生のために仕事を続けてるんだって。わかった気がした。


『…でもさ 璃子ちゃん。…その涙の理由はそれだけじゃないよね。』

そう。ずっと璃子を待ってる京介さんのこと。

『…その彼と別れたからすぐに…なんて私は思ってないよ。』

幸乃さんはテーブルに寄りかかり 璃子の顔を覗き込みながら話は続ける。

『ただね… 記憶を戻した京介くんに会ってあげてくれないかな。』

『……。』

璃子の頬をつたう涙は止まることはない。

私は二人の顔を交互に見て 璃子が首を縦に振る時を待つ。

『寄を戻すとか戻さないとかじゃなくて。』

璃子は胸元にそっと手をそえる。

そうだよね。

『璃子ちゃんの胸元でさっきから輝いてるそのネックレスは京介くんへの気持ちじゃないのかな…』

それは京介さんへの気持ちそのままなんだよね。

ハートのなかに輝くダイヤ。

それは二人の心に輝く愛の証し。

『……。』

『…璃子。ダメかなぁ。』

そこに答えを求めるかのように指でギュッとトップを挟み 首を横に振り続ける璃子。

『一番苦しんだのは璃子ちゃんだってわかってる。…でもね 京介くんも記憶を戻してからずっと苦しんでるの。』

京介さんのことを弟のように可愛がってきた幸乃さんたち。私たちの知らない京介さんを見てきてるはず。

『俺がいけないんだって…璃子ちゃんを傷つけてしまったって。…ずっと…ずっと自分を責めてるの。』

あの日 あの場所でキャッチボールしてなかったら… 直也の家で泣き崩れた幸乃さんもまた自分を責めてる。

『いつもの球場で待ってるの。』

『……え。』

『パパが何も知らない京介くんと。』

結婚式は今週末。京介さんには璃子の帰国していることを話してはいない。

『…無理は言わない。イヤならこのまま帰ろ。…でも ほんの少しでも京介くんの気持ちを汲んでくれるなら…会ってあげてほしい。』

璃子は真っ赤な目を私たちに向け ネックレスから手を離し 震える唇で言葉を紡いでいく。

『…逢いたいです…京介さんに…逢いたい…』

涙を流しながらも優しく微笑む璃子はすごく綺麗だった。

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