僕が僕を殺した理由
第2章 。
僕の心臓はドクン、ドックンと大きく波打ち、タケはジッポライターを弄る手を止めギョロッとした目を更に大きく見開く。
その様子は驚きを隠せない、といったところだろうか。そして、その顔は『何で?』と僕に問うているようにも見えた。
僕は必死に平静を装う。この叩きつけるような心臓の音が、タケの耳に届いているのではないか。そんなあり得ない事柄に心が乱れ、声が上擦った。
「C組の田代から聞いたよ。一昨日、たまたまコンビニで会ったんだ」
「そうか、知ってたんだ」
タケの口から溜め息が一つ漏れた。それは落胆と言うより、安堵に近いようにも取れる。そんなタケに向け、僕は苦し紛れに「おめでとう」と、付け加えた。
「いいのか?だってお前」
僕はそこでタケの言葉を遮断する。タケが何を言おうとしているのか想像するのは容易い事だった。そして、無くしてしまいたい過去を蒸し返される事を僕のプライドが拒絶していた。
「それ、どういう意味だよ。てか、いつまで過去の事に拘ってんだよ。うっとうしい」
僕は呆れたようにそう吐き捨てると、この顔に作り笑いを浮かべる。そしてタケは僕の言葉に安心したのか、タケらしいとも言える豪快な笑い声を上げた。
「そっかぁ、そうなんだぁ」
急に笑い声が止んだと思えばタケは何度もそう呟き、その言葉の意味を再度確認しているようだった。
僕は念を押すように「そう言う事だ」と、タケの肩を叩く。そして僕の頭の中では『しょうがない』と言う言葉だけが、絶えず繰り返し流れていた。
タケはそれまでの張り詰めていた空気に、喉が渇いていたのだろう。グラスに手を伸ばすと、それを一気に呑み干した。ゴクン、ゴクンと液体が喉を通る音が僕の耳にも届く。そして僕は噛み砕く事のできない現実を飲み込む為に、残り僅かな液体を躯に流し入れた。
「イツキちゃん、ここ空だよ」
空になったグラスを持ち上げ、タケはカウンター席に座る男の接客をしていたイツキと言う女性に、そう声を掛ける。イツキはそれまで引き攣らせていた表情を笑顔に変え、すぐさまこちらに移動してきた。
「タケさん、ありがとう。助かりました。あのお客さん、しつこくって」
カウンターに身を乗り出し、小声でイツキはそう言った。眉間にシワを寄せ唇を軽く尖らせている辺りに、イツキの本心が窺える。