僕が僕を殺した理由
第2章 。
どれくらい、そうした時間を繰り返していたのだろうか。数本目の煙草に火が点く頃、画面はようやく変化を見せた。
ノラ>朔、どうしたの?らしくないよ?
ようやく届いたノラからの言葉に、僕は一人、ニヤリと笑う。
朔>ごめんよ、ノラ。今日は久々に親友と会って、飲み過ぎてしまったんだ。悪ふざけが過ぎたかな。気分を害させてしまったのなら謝るよ。すまなかったね。
ノラ>ううん、大丈夫。朔が何ともないならいいの。なら、今日の朔は楽しい一日を過ごせたんだね。
僕はそこで手を止める。しかしそれはほんの僅かな時間でしかなく、気がつくとこの指がキーボードの上でメッセージを送り出していた。それはまるで僕の一部でありながら、僕とは違う意思を持つ別の生き物のようだった。
朔>ああ、勿論。有意義な時間を過ごす事が出来たよ。とても楽しかった。
ノラ>そう。よかったね。親友って、お付き合いは長いの?
朔>うーん、どうだろう。高校からの付き合いだよ。
ノラ>‥‥少し妬けちゃうな笑。
朔>?
ノラ>だって、何だか朔を奪られたみたい。それに、私の知らない朔を沢山、知ってるわけだし‥‥。
朔>可笑しな事を言うね笑。そいつ、結婚するんだよ。その前祝いだったんだ。
ノラ>なるほど。すごく盛り上がったんだろうね。大騒ぎしている光景が目に浮かぶよ笑。
朔>ああ、やばい位にね笑。僕の事より、ノラの今日はどうだった?
ノラ>あたしはいつも通り、冴えない一日。って、言いたいところだけど‥‥。
朔>?
ノラ>‥‥苦笑。
朔>ノラ?
いつもと違うノラの反応に、僕は思わず煙草を揉み消す。知らず知らずのうちに右手が口元へと伸び、親指の爪を噛んではパソコンの画面を食い入るように見つめた。それは長くも短くも感じられる奇妙な感覚を僕に与え、確実に不安という名の種を僕の中に植えつけていた。
僕が苦しんでいるように、ノラも苦しんでいるはずだ。いや、ノラは僕以上に苦しむ存在でいなければならない。そんな醜い願望が僕を支配していた。