テキストサイズ

僕が僕を殺した理由

第1章 。。


僕は改竄された世界の中、息を潜め、たった二つの選択肢も持たないままに、図々しくもこの世に居座る。この顔一面には、あの日、身に付けた作り笑いが浮かび、それでも最近ではそんな自分に疲れる事も忘れてしまった。

テーブルの上に置かれたパソコンのディスプレイは冷たい光を放ち、僕と顔の知らない誰かを繋ぐ。上面だけの言葉を連ね、他人を慰める振りをして自分を慰めた。

そんな毎日にも、もう飽きてきたところだ。再び僕が僕を殺す日も近いだろう。どうも感覚が戻りつつある。

薄暗い部屋の中には、カタカタと一定のリズムでキーボードを叩く音だけが響き、無機質な空間を印象付ける。あの日、僕の信じる全てのモノに裏切られたと感じた僕は、物さえ言わない物体までもを排除した。それが僕に出来る、唯一の抵抗だったのだろう。
 
水気の残る灰皿で揉み消した煙草の火はジューと音を立て、この耳に余韻を残しながらその焔を消す。僕の目は四角い箱の中に浮かび上がる平らな文字を捉え、無表情な顔でこの指が綺麗事だけを奏でていた。



ノラ>あたしの存在価値って何なのかなぁ。出来ることなら、このまま消えちゃいたい。

朔>そんな事、言うなよ。
存在価値。僕にもそれはよく解らないけれど、無価値な人間などいない筈だよ。君が気づいていないだけで、君に支えられている人間は必ずいると僕は思う。

ノラ>ありがとう。朔は優しいんだね。
朔の言葉は魔法みたい。そんな気が、本当にしてくる。ここで朔に出会えて、よかった。

朔>ノラは大袈裟だな(笑)。

ノラ>そんな事ないよ。あたしは朔に感謝してるもん。
それにね、あのカラスアゲハが、あたしを朔に出会わせてくれたって思ってる。
たしか朔も、あのカラスアゲハに惹かれたって言ってたでしょ?

朔>あぁ、そんな話もしたね。



二ヶ月前のあの日、ネット上を徘徊していた僕の目を留めたものは、黒い液晶画面を所狭しと埋め尽くすカラスアゲハの群れだった。青緑色に輝く鱗粉を纏ったその姿は魅惑的で、僕の関心を一気に奪っていった。そしてその衝撃の記憶は、今でも鮮明に僕の中に残っている。





ストーリーメニュー

TOPTOPへ