秘密のおとぎ夜話
第17章 【人魚姫】嵐の中で
嵐の前の静けさ。
そんな言葉がよく似合う、漆黒の夜。
何も知らない人間たちは、豪華な大型船の甲板でパーティーに興じていた。
人魚姫は岩礁に座り、遠くまで見渡せる透き通った目で、その光景に見入る。
ゆるくカーブを描いて腰まで流れる金髪。少女のあどけなさを残した輪郭の中に、透き通るターコイズブルーの瞳。
ぷっくりと色づく唇。
白い首筋、張りつめた乳房とウエストの細さは、すでに大人のものだ。
へその下、なめらかな腹部から尾ひれにかけては、虹色に輝く鱗に覆われている。
人間が見ればその美しさに魅了されるであろう人魚姫は、きらびやかな人間界にあこがれていた。
甲板では人々が踊り、音楽隊が演奏する。
その輪から少し離れた物陰で、動く人影が人魚姫の視界に入った。
海色のドレスの女の人と、船員の制服を着た男の人……
2人の身体が揺れていて、白い脚がドレスから覗いていて。
何か異様で秘密めいたその行為を、人魚姫は知らなかった。
見てはいけないもののように暗闇で行われるそれは、姫を瞬時に緊張させ、同時に高揚させた。
そしてその向こうで木箱に腰かける、貴族の服を身に着けた男の人。
目の前の男女を見つめて微動だにしないその人の顔立ちは気品にあふれて聡明そうなのに、
瞳は今夜の空よりも漆黒の翳りをたたえていて。
そのことに気付いた人魚姫はブルリ、と身震いをした。