秘密のおとぎ夜話
第17章 【人魚姫】嵐の中で
人魚姫はできるだけたくさんの人を安全な岩場や浜へ運んだつもりだったが、そのうち何人が助かったのかは知りようもなかった。
危険を冒し、自然に逆らって人間を助けるなど、姫の一族ではありえないことだった。
あの夜の人魚姫は、嵐が来る前に海底の城へ戻るはずだったのに、彼らに魅入られたようになり、考えるより先に体が動いていたのだった。
そして魅入られたのはその夜だけではなかった。
あれから毎日ため息をつき、悩ましく考え込む人魚姫に、5人の姉たちはひどくうろたえ、どうすればいいかをあれこれ相談した。
人魚姫の心を占領していたのが、美しい人間の青年ではなく、暗い暗いその瞳と、暗闇で跳ねる白い脚であったことは、誰も知らなかった。
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