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秘密のおとぎ夜話

第19章 【人魚姫】寝室で

海岸で会った男たちに町へ連れていかれる前に、
人魚姫は城の衛兵によって保護され

入浴、医者の診察、食事、着替えを終えて
豪華な部屋へ運ばれた。

城の者はみんな、人魚姫のことを「姫様」と呼び
うやうやしく接した。


人魚姫には誰が誰だかわからない。

なのにみんなが姫のことを知っており、無事を喜んだり
慣れた様子で世話をし、話しかけてきた。
もちろん人魚姫は言葉で応えることができないのだが。

たどり着いた寝室でベッドに入ると
突然大きなドアが開き

「我が妹が生きていたとは本当か!!」と
精悍な声が響いた。

「お医者様によると、記憶も、声もなくされて……」
侍女から簡単な説明を受けて下がらせたその人は

ひとりの騎士を従えてベッドに近づいた。

唯一、覚えている美しい容貌に
人魚姫の視線は縫い付けられたようになっていた。

(ああ、漆黒の瞳だ――――――。)

「妹よ……よく生きていてくれた。
明日には祝いの宴を開かせる。
今夜はひとまず私の右腕のこの男を捧げよう」

「王子!それはあまりに性急では。」
兄だと名乗るその人の後ろで、がっしりとした騎士が
異を唱えたが
その人は意に介さない様子で言葉を返した。

「なに、記憶はなくても身体が求めているだろう」

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