秘密中毒
第2章 情事
カタカタカタ……
あたしの指が素早くパソコンのキーボードを叩く。
結婚するまでは保育士の仕事をしてた。
だけど子どもを持てそうもないあたしは、毎日子どもと過ごす職場を選べなかった。
弱い自分を自覚しながら、あたしは畑違いの仕事を探した。家から少し遠い職場を探した。
…………
小さな会社の事務があたしの仕事。
もう2年が経とうとしていて、だいたいのことは分かる。
ちょっと好みの年下くんや、渋めの上司に会えるのも密かな楽しみ。
もちろん仕事自体が楽しいし、憂鬱なことを忘れられる貴重な時間だから。
会社で恋愛しようなんて思わない。
だけど
以前は恋人以外の男に興味なんてなかったあたしが。
今は男を見ると、つい考えてる……「どんなセックスするのかな」って。
誰でも、いいのかも知れない。
あたしを癒してくれるなら。
それは一人だけを愛し続けると誓った日のあたしとはあまりにも違う、
もう一人のあたしの姿。
…………
「よし、と」
作り終えた書類を印刷し、プリンターから滑り出したそれを手に取る。
「アヤさん、それもぉできたのっ?いつもだけど速~い!」
隣に座る桜が感嘆の声を上げた。
職場では先輩にあたる、26歳独身の正社員。
「アヤさんいたら、あたし要らないかも~」
マスカラたっぷりの目をクルクルさせて呑気なことを呟く。
「なに言ってんの、桜ちゃん辞めないでよ?」
こんなことを言っているけれど、桜は有能だ。
あたしにきちんと仕事を教えてくれたし、得意先の顔ぶれもしっかり把握している。
「あたしはもちろん困るし、桜ちゃんいないと得意先のおじさん達泣いちゃうよ?」
「大丈夫だよ~。アヤさんだって超人気だもん♪
あの可愛い子はいくつだ、彼氏いるのかなんてしょっちゅう聞かれるんだから~」
「ええっ?」
「てかおじさんに聞かれてもあんまり嬉しくないよねぇ~」
桜はきれいなネイルの指を口元に当てて、ケラケラと笑った。