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秘密中毒

第3章 慰め


その日の夜。

いつものようにあの人が自分の部屋に行ったあと、
少し家事をして私も自分の部屋に入った。

シングルのベッドと本棚、パソコンが置いてある。
それに洋服だんすとCDラジカセ。

一人暮らしの学生みたいな部屋だ、と我ながら思う。

あたしは部屋の中をいろいろと飾ることもしないし
自分の化粧やネイルや服装も、桜みたいに「盛る」ことはしない。


飾り立てると自分が自分じゃないみたいな気がするから。

髪型も高校以来変わらず、セミロングのボブ。
飾り気がないせいで、きっと若く見られるんだ。


そういえばあの人とは、飾らない者どうし気が合った。

あたしが大学生の時、あの人が同じ大学の大学院にいた。

あの人は研究者になりたかったんだ。
あたしにはわからない理論や実験に取り組んでた。

研究に打ち込むあの人が好きだった。

そしてあの人は優秀だったけど、
研究者の職には就けなかった。

あの人がプロポーズしてくれた時、あたしは嬉しかった。


同時にそれが、彼の夢の終わりだったことは
見ないようにした。

あの人は夢見た場所とは違うところで頑張ってる。
それが半分以上、あたしのためでもあるってわかるから。

今でもあたしは、あの人と一緒にいるんだ。

そしてあたしの身体に興味を失ったあの人と
一緒に居続けるために、

あの人をこれ以上責めないために…………。


身体であの人を裏切り続けるんだ。



…………

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