秘密中毒
第4章 異変
その男性はうっすらと営業用の笑みを浮かべていて。
涼しげな目に通った鼻筋、形のいい唇。
意志を感じさせるあごのラインと、白衣の襟からのぞく首筋。
一瞬見とれていたあたしは、
即座に診察を断る理由を頭の中でひねり出そうとしていた。
(こんなに若くてカッコイイ人にアソコ触らせるなんて無理!!)
理由はずばり、それだった。
産婦人科の往診なんて、おじいちゃん先生が来ると信じてたのに。
しかもご丁寧にこの先生、昔好きだった男の子に似ている。
そんな医師に対面するだけで、あたしは平静を欠いているというのに。
足を開いて「診てください」なんて絶対できない。
「えっと、あの…っ、こ、このお話はなかったことに!」
見合いを断るみたいな(いや、断ったことないから違うかもしれない)セリフを口にしながら
後ずさるあたしの動きに
2人は招かれるような形になって玄関に入り、ドアが閉まる。
「あ、もしかして先生が若くてびっくりされました?みなさん初めは戸惑われるんですけど、すぐに慣れますよ!」
癒しオーラ全開の笑顔で看護師が言う。
そっか、あたしの考えなんてお見通しなんだ。
他の患者もあたしみたいになるのね。
…変なところで安心させられながら、あたしは腹を決めていた。