
秘密中毒
第5章 再会
「カンジタだな。カビの仲間」
「カビ…?です、か」
さっき何かの器具で採取して、杉本さんがセットしたのであろう顕微鏡をチラリと覗き込んだ後、山田くんが説明する。
「ま、だいたい予想はしてたが。触診でも病変はないし、薬で治る。」
触診、って言葉に心臓が反応する。
でも。
(カビってなんかすごくやだけど。怖い病気とかじゃなくてよかった………)
「風邪引いてるだろ。」
予想外の言葉に、思わず「はぇ?」と間抜けな返事が口をつく。
「……声枯れてるし。何か薬飲んだか?」
顔をそらしながら続ける。心配してくれてるのかな?
「1年前に病院でもらった薬、飲んだから大丈夫…です」
あれ?山田くんがため息をついてる。
「そういうことか……あのな。そのせいだぞ。痒くなったのは」
「え」
「カンジタは常在菌…いつもいる菌なんだ。だが抗生物質なんかで免疫が落ちると繁殖して痒みが出る。」
「ええっ?でも、薬は風邪を治すために飲んだのに、免疫が落ちるってどういうこと…ですか?」
なんか騙された気分のあたし。
「抗生物質は狙ったウイルスをやっつける代わりに、お前自身の抵抗力も下げるんだよ。だいたい1年前の処方薬飲むなんて言語道断。」
うう…これめっちゃ怒られてる?あたし。
「ご、ごめんなさい………。」
「風邪薬も出しといてやる。抗生物質じゃないやつな。」
言いながら、山田くんはカルテにすらすらと外国語らしき文字を書いていく。
カルテを覗き込んだ杉本さんが、「取ってきま~す」と部屋を出ていった。
車にある程度、薬を用意してるのかな。
(抗生物質とかそうじゃないのとか、風邪薬にもいろいろあるんだ?)
そんなことを考えながら、彼を見た。
ボールペンを持つ指がきれい。
午後の日差しが入る部屋で、逆光ぎみの横顔がきれい。
…………
あたし、面食いなわけじゃない。
なのに、目の前の景色に胸の奥のほうを掴まれて。
………痛い。
放課後にこっそり見つめた横顔と重ねているんだろうか。
…………
……………………
