
秘密中毒
第5章 再会
「葛西くん…」
見上げた先には営業担当の年下社員。
どうやらぶつかりかけたのを手で防いでくれたようだ。
両肩をしっかり掴んだまま、葛西くんが言う。
「大丈夫すか?なんか顔色悪いっすよ!」
「だ、大丈夫。ごめんね、前見てなくて。」
「いや、僕こそすみませんっす!」
あたしの肩からそっと手を放して葛西くんは言った。
「今週具合悪そうでしたけど、明日は行けるんすか?」
「ん?明日………って」
「事務長の送別会すよ!」
「あ。」
「まさか忘れてたり…っすか?」
定年退職する事務長の送別会、今週だっけ。
「忘れてない、ない。ちょっと曜日の感覚がアレで…」
直属の上司でお世話になったし、事務員のあたしと桜で会場とか花束も予約したんだった。
(こないだの土曜日以来、忘れてたけど…)
「水谷さんの隣、僕が座りますから。忘れてて来ないとか、やめてくださいよ?」
独身の年下男はあたしに冗談を言って離れていった。
あたしはトイレで考えてた。
(…葛西くんにも具合悪そうって言われた)
確かに風邪はあまり良くなってない。
山田くんが処方してくれた薬、体に優しいぶん効き目も少ないのか…
それとも最近寝つきが悪くていろいろ考えてるから…?
(それにしても)
あの人とは大違いだな。
一番近くにいても、あたしの変化に気づかない。
山田くんでさえ、
10年ぶりに会ったのに、
かすかに声が枯れてるって気づいてた。
―――――ああ、また。
山田くんのこと思い出しちゃった。
ほんと困る――――――
…………
……………………
そしてトイレを出たとき、あたしはメール着信に気づいた。
