秘密中毒
第7章 接近
山田くんの長い指が、白衣のポケットから体温計と冷却シートと漢方薬を取り出した。
(マジシャンみたい…)
この人の手、好きだ。
きれいで、男っぽくて…見とれてしまう。
「熱、計れ」
その手があたしに体温計を差し出す。
山田くんはキッチンで水をくんで、同時にヤカンでお湯を沸かしているようだ。
「なんか食ったのか?」
「…なにも食べてない…です」
「そうか」
あたしが体温を計り、山田くんがくれた漢方薬を飲み終えた時。
目の前に、おかゆと豚汁が現れた。
「こ、これ…」
「レトルトだけど、食ったほうが早く治るぞ」
「…やっぱりマジシャンみたいだぁ」
腹ペコのあたしは感動をこめて山田くんを見上げた。
「は?俺に見とれてないで食えよ」
「み、見とれてないし。…いただきます」
山田くんはあたしがいる長いソファーから見て90度の角度に置かれた一人掛けのソファーに腰をおろし、背もたれに頭を預けて足を組んだ。
「はぁ、疲れた」
(他人の家でくつろいでるし!)
まあ…お茶も出せないで世話してもらってるんだから文句言えないか。
すぐに目を閉じた山田くんを横目で見ながら、あたしはおかゆと豚汁を平らげた。
「ご馳走さまでした。すっかりお世話に…って…山田くん?」
反応がない。
ふらつきながらもとりあえず食事の片付けをして、改めて山田くんのそばに行ってみると。
腕組みして座ったまま、規則的な寝息を立てている。
「やっぱり寝てる…」
ほんとに疲れてたのかな。
お産って夜中にもあるんだよね…きっと。
「お見舞い、ありがと…」
杉本さんが声が死んでるって言ってたから、様子見に来てくれたんだよね?
態度がちょっと強引だけど、薬もご飯も持って来てくれた。
そんなことを思いながら、あたしは、ソファーに覆い被さるようにして彼の寝顔に見とれる。
その時、肩の後ろにあった髪がひとかたまり落ちてきて、山田くんの頬に触れてしまった。
「あ」
まつ毛が揺れて、目が薄く開く。
離れなきゃ。また見とれてたのがばれちゃう。