秘密中毒
第7章 接近
なのに、焦点の定まらない目が、近づいてくる。
「―――?」
違う、あたしが引き寄せられてる。
いつの間にか後頭部に回された彼の手で。
柔らかいものが唇に触れた。
それが山田くんの唇だって分かったときには、
「…チュ」と音を立てて下唇を吸われていた。
あたしは動けなかった。
あり得ないことが起きた驚きと、唇から伝わる感触に…心臓は破裂しかけていたけれど。
あたしの脳は、手足に逃げることを命令せずに、ただ与えられる刺激を甘受した。
ほんの数秒だったと思う。
山田くんの唇はあたしの唇を愛撫するようにまさぐり、気まぐれに吸い付いて………
甘く甘くあたしを金縛りにしたあと、
急に離れた。
「あれ…あやとり…」
今、目が覚めたって顔が目の前にある。
「今、俺の寝込み襲ってた?」
真顔で聞いてくる。
あたしは我に返って山田くんの腕を払い、
「ち、違う!山田くんがあたしを捕まえて、キ、キ、キス…っ」
続きは恥ずかしくて言えなくなったけれど、山田くんはわかったみたい。
「悪い。俺、寝ぼけてた」
「………」
謝られて、あたしは少し傷ついてる。そうだよね。あたしってわかっててキスした訳じゃないんだよね。
誰と間違えたの…………?
「怒ったのか?」
「…だ、だって突然家に入って来て…気がついたら寝ちゃってて…おまけに誰かと間違えてキスとか、あり得ないから!」
あたしは一気に言ったあと、息切れしてソファーに座り込んだ。
「うん。俺もあり得ねぇと思う」
「…えっ?」
あっさり認められると、勢いを削がれるっていうか…
「まあ、ご飯と薬は、感謝しま…すけど……」
自分でフォロー入れちゃったりして。
「じゃ、キスはお礼ってことで許せ」
「お礼って…」
「さ、旦那が帰ってくる前に診察するぞ」
――――は?
「しんさつ…?」