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秘密中毒

第7章 接近



あたしは重い頭を持ち上げる。

この人のせいで忘れそうになってるけど、さっき計った熱…39度ちょうど。

こんな高熱、いつぶりだろう。
ほっとしたら一気に身体が動かない…

「寝とけよ。つらそうだな。旦那は何時に帰るんだ?」

「出張だから2泊いないの…」

「………」

あれ、山田くん…あたしに布団かぶせてる。

で、部屋を出て…玄関の音…

無言で帰っちゃうわけ?医者として、いや人間としてそれどうなのよ。


ああ鍵、かけなきゃ。

だけど身体が重い。

後でトイレに行くときでいいや………


ガチャ。ドサッ。

―――?

また玄関が開いて………

まさか空き巣?


と、寝室のドアが開いた。

「まな板どこだ?」

低音の柔らかい声がぶっきらぼうに放たれる。

「あれ、帰ったんじゃ…?」

しかもなんだろう、まな板って。

「朝からなんも食わずにいたような奴、2日もほっとけねーからな」

「そんな…大丈夫だよ」

「そういうとこが心配かけてるんだろーが。いいからまな板のありかを教えろ」

「う…流しの左上の壁に干してる」

「なに、あんなペラペラなのが!?」
そう言って山田くんはキッチンへ行ってしまった。

も、もしかして晩ごはん作ってくれるとか?

そんなの悪すぎる。というか逆に緊張して熱上がるってば!

でも「心配かけてる」…って、山田くんがあたしを心配してくれてるってことだよね?

なんかちょっと、くすぐったい…

どうせ今、起きられそうもないし甘えてしまおうか。

あたしはキッチンのほうに人の気配を感じることに不思議なほど安堵を覚えながら、また眠りについていた。

…………

……………………

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