
秘密中毒
第8章 恋慕
あたしはそっとベッドを抜け出そうとした。
誰かを起こさないように…なんて、何年もしてなかったことに気づく。
(え~と、足を引っ込めて…)
「…なんだ、襲ってくれないのか」
「きゃっ!いつから起きてたの?」
「あやとりが俺に乗っかってきた時から」
言いながら、離れようとするあたしの腕をつかんで引っ張る。
「ちょっ…離して」
ああもう、心臓に悪い。
「そうだ!なんで一緒に寝てるのよ?あたしが寝たら帰るって確か…」
山田くんは一瞬ぴたりと静止して。
「覚えてないのか」
「へっ?」
あたしが身体の力を抜いたとたん、山田くんの腕が肩と腰に回って。
一瞬であたしが山田くんの下に組み敷かれた。
「帰ろうとしたらあやとりが引き止めたんだぞ。行かないで、一緒に寝ようって。」
「はっ?うそ?」
そこは全く覚えてない。
それよりこの体勢は…何ていうか、押し倒されてる感じで。
山田くんの体重と体温に圧倒される。
「おまえが患者じゃなかったら確実にヤッてたな」
「う、うわ…最低」
「旦那の留守に男をベッドに誘うやつに言われたくねえ」
「だっ…だからそれは、寝ぼけてて…」
「寝ぼけてる時ほど本音が出るんじゃねえの?」
山田くんのきれいな顔がすぐそばにあって、意地悪を言う。
(けど確かに…本音だったかも知れないな。)
意識してないけど昨日も山田くんのこと好きだったわけだし。
それに何年も、あの人にそうして欲しかったんだ…………あたし。
「………」
「そんな顔すんなよ」
「えっ?どんな…」
「ブサイクな顔」
「ひどっ―――――」
その時山田くんの顔が降りてきて。
あたしは反射的に目を閉じた。
――――コツン。
「熱、下がったな」
触れたのはおでこだった。
山田くんはあたしを離すと、素早くベッドから降りて、脱いであった白衣を羽織った。
あたしは、取り残された感じになって。
今度ははっきりと心の中でつぶやいた。
( 行 か な い で )
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