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秘密中毒

第8章 恋慕



(もう帰っちゃうのか………)

あたしは内心、とてもがっかりしてる。山田くんが帰るのは当然のことなのに。

彼がお皿を洗おうとするのを止めようとすると、「これ飲んどけ」と漢方薬を渡された。

キッチンでお皿を洗う山田くんの隣で、立ったまま薬を飲む。

―――あ、そうだ。

「山田くん、薬代と診察代いくら?」

隣を見上げると、手を止めずに
「いらない」と言う。

「えっ?そんなわけに行かないよ!」

ここまでしてもらって、診察代までタダなんて。

「いや…金取ると事務手続きがいるから。かえってめんどくさいの」

「だからってタダなんてダメだよ!」

洗い物を終えた彼が、ようやくあたしを見て、顔をしかめた。
「あー何こぼしてんだよ」

「ん?」

山田くんの視線の先を見ると、部屋着の胸の部分が濡れてる。

あたしがリアクションするより先に、タオルを持った彼の手が見えて。

あたしの胸元を拭いた。


胸の真ん中だから、乳房には触れてないんだけど。

妙に生々しい感覚に、あたしは動けなかった。


山田くんはあたしの顔を見ないで拭き続けながら言った。

「あやとりって隙だらけもいいとこだな」

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