秘密中毒
第2章 情事
鍵が開く音。
いつもと同じ靴音。
「ただいま~」
いつもと同じ声。
「お帰り!ちょっと遅かったねー」
あたしはいつもと同じ声、出せてるんだろうか?
秘密を増やした日、いつもこの瞬間にあたしの心に緊張が走る。
リビングでテレビを見ていたあたしは、キッチンに入って料理を温めはじめる。
あの人は上着を脱いでハンガーにかけると、キッチンにやってきて。
あたしに軽くキスをする。
いつもと同じ。
あの人はあたしの出した晩ごはんを食べて「おいしい」って言った後、
お風呂に入って、スポーツニュースを見る。
その間、あたしはあの人を盗み見る。
誰が見てもイケメンてわけじゃないけど、あたし好みの骨ばった輪郭。
太めの整えていない眉に垂れ気味の小さな目。
健康な肌に無精髭。
優しく笑っているけれど、あたしの目を見つめることのない瞳………。
あの人は11時ごろには寝室に入る。
あたしとは別の寝室へ。
いつもと同じ。何もかも。
あたしたちはいろんな話をする。
誰かとお昼を食べたとか、電車でこんな人を見たとか、話題のニュースとかについて。
あたしたちは仲のいい夫婦で。
セックスは、しない。