心の色
第7章 <病院>
Aが目を覚ますと、そこは病院のベッドのうえだった。体を起こそうとした途端に腹部に激痛がはしり、上半身を折るようにうずくまった。腹を見てみると包帯が巻かれていた。
それからの数日の間、Aには断片的な記憶しかない。
あの夜、不穏な空気を感じた近所の人が、警察に通報したのだという。
警察が駆けつけた時には2階の一室で、Aが半ば気を失いながらも少女を取り押さえており、少女も失神したようにおとなしくなっていた。
Aに寄り添うようにして、その家の息子が泣きながらシーツでAの腹部をおさえており、そのシーツは流れ出たAの血で赤く染まっていたらしい。
昏睡状態であったAの目が覚めたと知るや否や、刑事がいれかわり訪ねてきて、それはつまり事情聴取であるのだが、まったくの接点のないAがあの現場にいた理由をなんとか聞き出そうとしていた。
考え事をしていて、夜風にあたりたくなってぶらぶら散歩していたら、悲鳴のような声が聞こえておもわず飛び込んでしまった、という自分でも苦しい説明をくりかえししているうちに、刑事達も納得したのか、はたまた容疑者が捕まっている事件の詳細にはとりたてて興味がないのか、気がつくとAの日常も平穏を取り戻しつつあった。
ドアをノックする音に返事をすると、妻が顔をのぞかせた。
「やあ」Aは片手をあげて挨拶し、その拍子に腹にひきつれるような痛みがはしって顔を歪めた。
妻が剥いてくれたリンゴを口にほうりこむ。妻の手から暖かなオレンジの光が伸びてAのそれと絡み合った。
それからの数日の間、Aには断片的な記憶しかない。
あの夜、不穏な空気を感じた近所の人が、警察に通報したのだという。
警察が駆けつけた時には2階の一室で、Aが半ば気を失いながらも少女を取り押さえており、少女も失神したようにおとなしくなっていた。
Aに寄り添うようにして、その家の息子が泣きながらシーツでAの腹部をおさえており、そのシーツは流れ出たAの血で赤く染まっていたらしい。
昏睡状態であったAの目が覚めたと知るや否や、刑事がいれかわり訪ねてきて、それはつまり事情聴取であるのだが、まったくの接点のないAがあの現場にいた理由をなんとか聞き出そうとしていた。
考え事をしていて、夜風にあたりたくなってぶらぶら散歩していたら、悲鳴のような声が聞こえておもわず飛び込んでしまった、という自分でも苦しい説明をくりかえししているうちに、刑事達も納得したのか、はたまた容疑者が捕まっている事件の詳細にはとりたてて興味がないのか、気がつくとAの日常も平穏を取り戻しつつあった。
ドアをノックする音に返事をすると、妻が顔をのぞかせた。
「やあ」Aは片手をあげて挨拶し、その拍子に腹にひきつれるような痛みがはしって顔を歪めた。
妻が剥いてくれたリンゴを口にほうりこむ。妻の手から暖かなオレンジの光が伸びてAのそれと絡み合った。