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重なる日常

第1章 重なる日常:X

電球が切れる間際の最後の力をふりしぼり、チカチカと点滅していた。もう一方の電球もいいかげん光が弱まっており、そのうち替えなくてはと思っていたところだった。

ちょうど良いと思い、Yは切れた電球を替えようと、ひきずるように運んできた脚立の上にたった。

それでも手が届かないため、脚立の上につまさきだちに背伸びをし、めいっぱい両手をのばす。

がたがたと脚立がぐらつく。あ、あぶないな、と思った瞬間あしを踏みはずしていた。そのままキッチンの床に転がり落ちる。追突したときの痛みを覚悟するかのように、ぎゅっと目をつむった。

衝撃のわりに、ふしぎと痛みは感じなかった。そのかわり暖かさにつつまれていた。

目の前の空間から、「ぐう」と息を吐き出すような音が聞こえた。
妖精さんが、息をひそめて彼女の様子をうかがっているような気配を感じたYは、つとめて冷静をよそおい、まるで何も聞かなかったようにじっとしていた。

やがて、Yの体から気配が離れていった。暖かい空気のかわりにひんやりとした床の冷気が体を包んだ。

Yは、念のためにそのまましばらく体を動かさずにいたが、上半身をゆっくりと起こした。

あたりを見回し状況を確認する。床には皿やコップが散乱していた。ゆっくりと片付けをはじめる。

「あ、」声がかすれた。「ありがとう」おもわず言葉がこぼれてしまった。これほど素直にお礼を言えたのはいつぶりだろうか。

自分のミスに気がついたYははっと口に手をあてて、動きを止めた。
当たりの気配をうかがう。

なにも反応がないことを確かめると、Yは床の掃除をつづけた。
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