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第3章 里親

【幕間 関所前にて】
…つくづく手のかかるガキだ。
そう直感した。
紙一枚渡してくるだけだろうが。何で逃げ帰ってきたのか皆目見当もつかん。
まさかとは思うがアーテに何か言われたんだろうか。
それともポル…いや、あいつは馬鹿なだけだったな。
…実を言うとあの紙になんと書いてあるのか全く分からない。
相当ヤバいやつだったとしたらガキが逃げ帰ってくるのも納得がいく。
そしてあいつが俺の名前を出していたら…。
違う。『何て説明したらいいか分からなかった』『自分のことは自分で説明してくれ』みたいな事を言っていた。
大丈夫だ。…多分。
そんなことより字があまり読めないのは壊滅的だというのを実感した。
それも偏に呑んだくれの親父と強欲な母親の所為だろうな。
あの二人の金遣いの荒さは酷かったものだ。
おかげで無学のまま成人してしまった。
世間は薬種商だからと言って賢いと勘違いしているようだが、少なくとも俺は違う。
技術は師匠に言われた通りにやっているうちに身についた。
読める分の字はアーテに叩き込まれて忘れていない部分と自分の推測だ。
推測故に頻繁に読み違えて恥ずかしい思いをするが。
きちんと教わろうと思った頃には師匠は死んでいた。
結局、間違えずに読めるのは
『関所』、『手洗』だの『男』『女』だの最低限のものだけだ。
『絶対に覚えておけ』と念を押されて週に一度覚えたか問い質された単語しか記憶にない。

…またガキが戻ってきた。
妙に自慢気だが何か変なものでも食ったんだろうか。
「後で保護者を連れてこいって」

…やっぱり手のかかるガキだ。

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