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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ








「これからよろしく頼むよ」

「はい」
「ありがとうございます」

差し出された手と順に握手を交わした。




「ふぅー、上手くいったな」

取引先を出ると、
固く結んでいたネクタイを少し緩める潤。

「潤のプレゼンのお陰だよ」

「いやいや、資料を作ってくれたのは翔だろ?」

いつもの様に肩で突い合いながら
互いをを褒め合う気持ち悪い成年男の2人。


いや……おっさんの2人。


「でも今回は大変だったんだからな。
急にアポ取るなんて言うから……」

「それは悪かったって言ってるだろ?
だから後のことは翔主導で進めていいからさ」


パチンと手を合わせて謝ってくるけど、
全然反省が伝わってこない。

寧ろ、この後の仕事を押しつけてやがる。


「調子のいい事言いやがって。
早く家に帰りたいだけだろ?」

「物分かりのいい同期を持って俺は幸せだよ」

「気持ち悪いこと言ってんじゃねーよ」

不貞腐れて見せてるけど、
本当にそうするつもりだった。


きっとこれから大変だろうから……


「そろそろ、退院だろ?」

「よく分かったな」

「この1週間の追い込みようが
半端なかったから嫌でもわかったよ」


このタイミングでの企画の持ち込み。

そして見計らったような契約完了。


「じゃあ、俺がこれから
どこへ行きたいかわかるよな?」

「病院しかないだろ?」

そもそも今歩いている方向も会社とは真逆。

「さすがだな」

「帰りに毎日寄ってりゃ、バカでもわかるわ」


企画を持っていった会社は潤の奥さん……

すなわち和也くんが今、
入院している産婦人科に近い。

今日のように訪問した後に入院している
和也くんに会いに行けるよう、この時期に
この会社を選んだんだ。


ホント、夫婦関係で悩んでいた時期が
あったとは思えない溺愛ぶり。


「なぁ……今日くらい、顔出してくれよ?」

「いや、俺はいいって」


知らない仲ではないけど、
やっぱり気まずさは拭えないから……

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