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異形の男

第1章 1

「現在、警察は、4人の容疑者を追跡中です」
画面には、ヘリからの空撮映像にかぶせてアナウンサーが報道していた。
画面下にはテロップが「速報:ダウンタウンのカーチェイス」と書かれている。

4台のオフロードバイクが夕暮れの街を走り抜ける。
1台のバイクの後部には、恐怖に顔を引き攣らせた人質の男性が、縛りつけられている。
人質の男は悲鳴をあげながら必死に座席にしがみつく。振り落とされないように。
ネクタイが風にあおられてたなびいている。「助けてくれ」人質の男が恐怖に顔を引き攣らせながら叫び続ける。
夕暮れの道路は、帰宅途中の車で溢れかえっていた。
それらの車の合間を縫うように、4台のバイクは走り抜けていく。
クラクションと怒声がそこかしこから響き渡る。
暴走するバイクの背後から複数のパトロールカーが追跡を始めた。
屋根にとりつけた赤と青のパトライトを点滅させ、サイレンが金切り声を上げる。
先頭を走るパトカーの運転席では、新人警官がハンドルを握っていた。
カーチェイスなど初めての経験で、ハンドルを持つ手はがちがちに緊張している。
心臓が早鐘をうっている。緊張と、興奮だ。
助手席の相棒が少し不安げな目で、前方を凝視していた。
「タイヤを撃っちまえ!」新人警官はどなった。
相棒は助手席の窓から身を乗り出し銃の狙いを定めようとする。
左右に揺れる逃亡者の後輪に狙いを定めようとする、と人質と目があってしまった。
人質の顔は恐怖で顔を引き攣らせ何事か叫んでいるが、風に流されてこちらには届かない。
「だめだ、狙いがとれん」窓から顔を引っ込めた相棒が言った。

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