テキストサイズ

Spring Blind ~風の中、歩き出す~

第4章 卒業式と、初恋。


俺は制服に着替えた。
慣れた手付きでボタンを閉め、ネクタイを締め、姿見の前に立つ。
「今日で最後か…」
ふと零れた言葉には、色々な意味が詰まっていた。
この制服に身を包むのが最後、学校に普通に足を運ぶのが最後。 そして…。 当たり前の様に歩風に会うのも、今日が最後…。
「よしっ!」
両手で軽く頬を叩き、自分に気合を入れる。

リビングに行くと、卒業式仕様になっている父親と母親…。

「剛典、おはよう」
「うん、おはよう」
いつも通りの母さんの声に安心しながら、テレビの天気予報を見た。

「今日は全国的に晴れるでしょう」
その一言を聞いて安心した。
「所により、風が吹く所もあります」
…強風じゃないといいな。

そんな事を考えながらも朝食を摂り、荷物を持った。

「じゃあ、行ってきます。 母さん達は、後から来るんでしょ?」
「そうね。 …剛典の事、しっかり見ておくから」
「ふふっ、宜しくね」
「うん、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
いつもなら普通の会話も、今日は何だか少しだけ特別に聞こえた。

玄関を開けて外に出ると、暖かい風が吹いてきた。
春らしい風に、柔らかい日差し。 軽く笑顔になり、大きく息を吸い込んだ。

…歩風との登校の日も、今日が最後。 少し寂しい気分にはなったが、彼女の家へと歩き出した。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ