Spring Blind ~風の中、歩き出す~
第1章 夏の日常。
「いいよ。 気にしなくても。 …だけどさ、そういうのは俺が寂しくなっちゃうからさ。 出来れば、あんまりしないでね?」
…そんな子犬みたいな表情で言われたら、断れないよ。
「…分かった。 分かったから、手離して?」
そう言って剛典の手を振り払おうとした。
「えー! 何でー! もっとプニプニしたいのにー…」
「私の家…、着いたのに…?」
そう、目の前には、私の家。
…楽しい時間って、過ぎるのが早いね。
特に、剛典の事を好きになってからは、尚更過ぎていくのが早く感じてしまう。
「あー、本当だ。 早いねー」
「うん…」
「じゃあ、俺帰るね。 気を付けて帰れよ!」
笑いながら私の家を指さして、そう言った。
「気を付けて、って…。 家目の前だよ?」
「そんなのずっと分かっているから! じゃあ、また明日!」
そう言って、手を振って遠ざかって行った。
「うん! また明日!」
いつもより少しだけ大きめの声で言い、手を振り返した。
…季節は、夏。 剛典が走って行った後には、少しだけ涼しい風が吹いていた。
まだ明るい日が差している、午後5時。
私は、剛典の事を想いながら、自分の影を追って家に入った。