Spring Blind ~風の中、歩き出す~
第5章 俺と、大きくなった君の存在。
…そんな俺の願いが届いたのか、歩風が一瞬こっちを見た。
目が合った途端、驚いた様に目を丸くして、歌うのをやめた。
…俺に気付いてくれた…?
そう思ったら嬉しくて、笑顔になった。
そして、少しだけ手を振ってみた。
すると、笑顔で手を振ってまた歌い出した。
…気付いてくれて、手を振ってくれた。
嬉しくて浮かれているのは、ただの自己満足と言われてしまってもしょうがないと思う。
だって、俺が立っている場所の周りには、沢山人もいるし、他の人へのファンサービスだったのかもしれないから。
…それに、俺も歩風と離れてから、顔も多少は変わっていると思うし…。
…ただの勘違いだったとしても、それでもいいや。
そう自分に言い聞かせ、持っていたグラスの中身を飲み干した。
それとほぼ同時に歩風の歌も終わり、周りには沢山の拍手が響いた。
歩風は、その拍手に応える様に、笑顔で礼をしていた。
その音も落ち着きを見せると、ゆっくりと話し始めた。
「聞いて下さり、有難うございました。 この曲は、夢を目指す人に少しでも勇気を、と思い書いた曲です。 皆さんの中にも、夢を目指している人、もう叶えている人…それぞれいらっしゃると思います。 そんな皆さんに、この歌が少しでも響いたなら、歌手として幸せです。 有難うございました」