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旅は続くよ

第1章 ひとつ屋根の下

智くんと並んで受付でお悔やみを言って、芳名帳に記入する

ああ、そっか

過去2回の葬式は記入しなかったな

喪主だったりしたから…


O「雅紀達は…、控室かな」

この葬儀場は初めてだったけど、
何処も造りは同じようなもの

案内表示もろくに見なくても、
場慣れしてきて無駄に手際が良くなったのも我ながら腹立たしい


喪主の控え室に行くと随分賑やかな様子が廊下にまで響いていた

ドアを開けると、恰幅の良いおっさんに綺麗ドコロの姐さん達が詰め寄っていた

その間に雅紀が割って入って、
潤が脇でオロオロしてる



O「どうした?」

M「あ、さと兄。翔兄も」

潤が少しホッとした様子を見せたけど

姐さん達はますますヒートアップしてる


「出てけなんて酷いじゃないか!このスカタン!」

「別に今すぐって言ってるわけじゃ…」

「だからって葬式も終わってないのに薄情な事言うんじゃないよ!」

「いいんだって、明菜姐さん。わかってた事なんだから」

「良くなんかないよ、まーちゃん!
今まで可奈子ママには皆が世話になってたのにさ」

「そうよ、まーちゃん!
オーナーだって可奈子ママに店を大きくして貰ったくせに、情けないったら!」

「でも、社宅である以上はさぁ…」

「だから!後ですりゃいい話じゃないのさ!クソ爺!」


成人して働いてる男に“まーちゃん”はないと思うが

小さい頃から成長を見守ってた姐さん達の目には、
雅紀も潤もいつまでも可愛い男の子に映っているんだろう



智くんと俺は目を合わせて頷いた

大体予想通りだ


雅紀の母親であり、俺らの母親の妹である可奈子叔母さんが病に倒れて4ヶ月

雇われママをしていた店の社宅に雅紀達が今まで住まわせて貰ってたのは

クソ爺呼ばわりされているオーナーの温情だ

葬儀の始まる前に皆の前でそんな話をしたのはタイミングが悪いとは思うけど

遅かれ早かれ、あのマンションを出て行かなくてはならないのは俺らも知っていた



O「雅紀」

智くんが穏やかに、それでいてよく通る声で話しかけると

その場にいた全員が振り向いた

O「ウチに越して来な。潤も一緒に」

A「え…?」

雅紀が目をまん丸くして俺を見たから、大きく頷いてやった



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