
ツインテールの君
第1章 聖夜の宴のデザートは?
* * * * * * *
廊下に戻ると、國佳は扉を後ろ手に閉めた。
「……はぁ…っ」
胸が苦しい。不可抗の力に不要な呼吸を急かされるのは、露天風呂に長く浸かっていた所為か。
入浴とは、運動して身体を動かすくらい、体力を消費するという。
さすれば、この、身体の深奥で疼くしとりは何として説明がつくのだ。
そして得も言われぬ喪失感。
國佳には、胸の内を相談出来る相手こそいても、俗にいう劣情とやらを分かち合える一人がいない。
生まれてから今日までの二十六年間、恋人と言えば妄想の中の人物だった。
学生の時分は同じクラスや部活の生徒を目で追いかけて、社会に出ると、街で好みの女を厳選しては、やはり目で追いかけた。そして胸裏に焼きつけた面影を求めては、声すら聞いたことのない女を相手に、口に出すのは憚られる類の仮想に耽る。
つまるところ淋しいのだ。恋だの愛だのの問題以前に──…。
國佳のよく知る二人の女性達の声が、耳の奥でこだまする。
にわかに國佳の前を見知った少女が通りかかった。
「あ」
はっと目を惹く聖夜の天使が、体重などほとんどかかっていまい足を止めた。
少女のぱっちりした無垢な瞳が、國佳を捕らえた。
