不透明な男
第8章 序章
翔「本当駄目ですからね?ちゃんと寝ないと。」
智「は、はい…」
小さくなった俺を見て、翔がクスッと笑う。
その次の瞬間、空気がピリッとした。
翔「…また、虫に刺されましたか?」
智「え?あ…、あ、うん」
翔が一点を見つめていた。
俺の首から覗く紅い跡。それを食い入るように見ている。
智「なんだろうね?おれ、刺されやすいのかな(笑)」
笑って誤魔化しながら、服を引っ張り潤につけられた跡を隠す。
翔「気を付けて下さいね?色んな虫がいますから…」
智「うん」
翔「胸の傷は?」
智「ああ、あんなの大したこと無いよ。すぐに治るよ」
翔「なら良かったですけど」
また心配そうな目で俺を見てくる。
智「あ、もうお昼終わっちゃうんじゃない?」
翔「あ、本当だ」
智「じゃ、また検診の時に会いに行くよ♪」
俺はまた顔を赤く染めた翔を置き去りにしてカフェを後にした。
俺を心配そうに見つめてくる翔には少し胸が傷んだけど、翔の顔を見た事で、俺の気持ちは幾分か落ち着きを取り戻していた。
じゃあ、そろそろ行くか…
俺は、重い腰をあげた。