不透明な男
第8章 序章
俺は、自分の家に行くんだと翔には言わなかった。
言うと、また翔は心配するだろうし、ついて行くと言いかねない。
少し心細かった俺は、そんなふうに言われたら断る自信が無かった。
潤は、俺が家に入れてくれなかったと言った。
だからかもしれないが、何故か他の奴に見られてはいけないと思った。
…ふう。緊張するな。
自分の家に入るだけなのに、ドアの前で尻込みをしている。
どのみち見ないと先に進めないんだからと、気を奮い立たせ鍵を差し込む。
…ガチャ
よし、と気合いを入れてドアを開けた。
…
なんだ…、普通じゃん
思いきって開けたその先には、なんとも普通の部屋の光景が広がる。
そこは、特に何の変鉄もない20台半ばの男の一人暮らしの部屋だった。
その普通の光景に俺は胸を撫で下ろした。
…そりゃそうだよな
普通の部屋に決まってるじゃんか
おれは何をびびってたんだ
部屋を見回しクスッと笑いを漏らす。
…しかし殺風景だな。なんも無いじゃん。
一応の生活用品はありそうだが、無駄な物は一切無さそうなその部屋は、少し寂しく思えた。
取り合えず俺の事を探ろうと、覚えの無い部屋をウロウロと探索する。
何か見つかるかな、一体何が見つかるんだろう…とそわそわザワザワしていた。
なのに何処か他人事の様に、客観的に部屋をウロウロとさ迷っている俺も居た。