不透明な男
第8章 序章
出して貰ったコーヒーを飲んで少し落ち着いた所に、東山先生が話を切り出す。
東「どうして俺に電話を掛けてきた?」
智「…自分ちのテーブルに電話番号を書いたメモがあったから」
東「俺だと分からずに掛けてきたのか?」
智「うん…」
ああ良かった、やっぱり正解だったなと先生はホッとした顔をする。
東「メモをテーブルに置いておくってお前が言ったんだぞ?」
智「え?」
東「また、こうなるかもしれないからって…」
智「どういう事?」
お前にこの話をするのは胸が痛むんだからしっかり聞けよ、と苦笑いしながら先生は話を続ける。
東「8年前、お前に初めて会った時…」
智「う、うん」
東「…お前は、記憶を無くしてたんだよ」
智「……は?」
8年前、俺は救急車で病院に運ばれたと言う。
東山先生とはその時出会ったと、そう言った。
東「当時、俺の勤めている病院にお前は運ばれて来たんだ」
智「え…」
東「まだ医師だった俺は、お前の担当医として出会ったんだ」
当時の俺はまだまだあどけなく、眠っている姿は女の子と見間違える程だったと言う。
そんな俺はようやく目を覚ますと、頭がからっぽだったらしい。
智「え、なにそれ…… 」
以前も記憶を無くしていたのか…?
なんなんだそれ
おれ、バカみたいじゃんか
俺は自分が情けなくなった。