不透明な男
第8章 序章
お前はちゃんと髪を乾かしてから来いと、言い残すと松兄ぃはベッドルームに入って行った。
ベッドを整えると、松兄ぃは俺を呼ぶ。
兄「いいぞ、来い」
松兄ぃはクイッと指を曲げる。
智「…おれは犬か(笑)」
失笑しながらも、大人しく松兄ぃの元へ向かう。
兄「何か言ったか?」
智「いんや、なにも(笑)」
兄「なんだよ(笑)」
智「ふふ」
松兄ぃの大きく広げた腕の中に飛び込む。
俺は、松兄ぃの腕にすっぽりと納まり胸に顔を擦り付ける。
兄「珍しいな(笑)」
智「甘えてんだよ。…いいんでしょ?」
兄「いいに決まってる」
俺はふふっと笑うと、温もりが気持ちよくて目を閉じる。
兄「今からこんなで、明日からどうするんだ」
智「どうって?」
兄「夜だよ。ひとりで寝れるのか?」
智「なにそれ。子供じゃないんだから(笑)」
兄「だってお前…、毎晩魘されてるじゃないか」
智「起きたら忘れてるからいいんだよ」
松兄ぃは、ふぅ…と溜め息を吐くと俺をぎゅっと抱き締めた。
何も言わないけど、心配してるのが分かる。
智「…大丈夫だよ。おれ大人だよ?」
兄「そうだな。これでも一応大人だったな」
智「なんだよ一応って(笑)」
兄「ははっ」
松兄ぃはひと笑いすると、俺の髪をそっと撫でる。
兄「しっかり抱いててやるから、もう寝ろ」
智「うん…、ありがと…」
兄「おやすみ、智…」
松兄ぃは、俺の額にちゅっとキスをした。
智「おやすみ…」
俺は暖かい腕に抱かれ、すぐに眠りに付く。
この夜は、ヘンな夢も見ずに幸せの内に眠れたんだ。