
不透明な男
第8章 序章
俺はちゃぽん…とお湯に浸かる。
洗ってやると言う松兄ぃを、自分でやるから入って来ないでと、睨み付けると一人でバスルームに向かった。
不馴れな手付きでなんとか後ろを洗う。
シャンプーもして、体も洗い、お湯に浸かった俺は一息つく。
俺は身体の熱を冷まそうと、深呼吸しながら目を閉じた。
ガラッ
智「!」
兄「もういいか?」
智「だ、だめ!」
兄「汗でベタベタなんだよ。俺も洗わせろ」
松兄ぃは、有無を言わさず体に泡を纏う。
手早く頭と体を洗うと、お湯に浸かる俺の後ろに入ってきた。
…ちゃぽん
兄「あ~、気持ちいい」
智「んじゃお先に」
兄「って、おい待て待て」
銭湯じゃねえんだから、と笑う松兄ぃに腕を引かれ、再びお湯に浸かる。
俺は頭だけくるっと振り返ると、じっと松兄ぃを見る。
智「…ヘンな事しない?」
兄「ヘンて何だよ」
智「ひゃっ」
兄「こんなのか?」
後ろから手を伸ばすと、俺の前をきゅっと掴む。
智「…もう勃たないよ」
兄「俺もだ」
智「…ぷっ、ふふっ」
兄「ははっ」
目を合わせると、ふたりで笑い合う。
ああ、前もこんな感じだったのかなと、不思議と懐かしい感覚が込み上げる。
兄「肩が冷えてる。ちゃんと暖まれ」
智「…ん」
風邪引くぞと、俺を後ろからそっと抱き締めお湯を掛けてくれる。
智「…暖かいよ。ありがと…」
朝、この家を出て行くまでは、松兄ぃの温もりに甘えてしまおうと思った。
