不透明な男
第9章 もうひとりの俺
何料理か分からないけどお洒落なカフェだった。
すぐ隣にある窓を開けると俺はその窓枠に手を付き飛び越える。
男の高級車に張り付いているBGは驚いて俺を見る。
俺を捕まえようと向かってくる3人のBGを払い除けるとその後ろ、高級車の影から逃げ出そうとしている黒縁眼鏡に飛び掛かった。
抵抗する黒縁眼鏡のうなじにチョップをかますと、手首を取り捻り上げる。
崩れた所を腹這いになる様押さえ付け、後ろ手に更に捻る。
智『もう無理ですよ。諦めた方がいい』
観念した様に脱力した黒縁の男ををどうぞ、とBGに差し出す。
智『あ…、ごめんなさい。つい、手が出てしまって…』
黒縁眼鏡を受け取ったBGは口の端から血が滲んでいた。
社『君は、一体……』
驚いた顔をしながら俺の方にやって来た男に俺は言う。
智『…腕には自信があるんですよ?』
ニコッと笑う俺を男は未だ目を丸くして見ていた。
社「まさかうちのBGまで倒されるとは…。その華奢な外見からは想像も付かなかったな」
社長は当時を思い出し、ははっと笑った。
智「ふふ、僕は弱そうに見えますから。BGも油断していたんでしょうね」
社「いやしかし、立ち向かってくる大男相手に素晴らしかった。ライバル社の男もあっさり捕まえてしまったしな」
本当にお前をBGとして迎え入れる事が出来て良かった。誇りに思うよと社長は目を細めた。
社「こんなに不思議なお前に出会えた事を、奇跡に思うよ…」
智「奇跡、ですか…。ふふ」
俺も奇跡だと思ってるよ。
顔も思い出せなかった奴にばったり出会えたんだ。
会っちゃいけない、会うわけにはいかないんだと思っていた奴と、今、こうして笑いながら会話をしている。
俺も思ってるよ。
不思議だなって……