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不透明な男

第12章 惑乱


智「せんせー」


俺はまた東山先生の所に来ていた。
今日は休みだったし、行くところがあった。
その前にここに寄ったんだ。


東「珍しいな、こんな短いスパンで来るなんて」

智「んふ」

東「…どうした?その顔する時はロクな事があった気がしないが」

智「んー…、眠れるヤツ、ちょうだい?」

東「は…?」


なんだって、もう無くなったのか?と俺に詰め寄る。


智「や、あれ効かないんだよ。ちょっと寝てもすぐ起きちゃうし」

東「まさかその度に飲んでたんじゃ」

智「だって」


だってじゃないよ、どんな飲み方してるんだとクドクドと説教が始まった。


智「んもーそんな怒んないでよ。絶対あの薬が弱いんだって」

東「だけどお前、そんな飲み方してたら身体がボロボロに」

智「んあ、もうっ。わかったってば。ちゃんと守るからさ」


ほら見て、と俺の目の下を指で指す。


智「ね?ひどいでしょ」

東「確かに酷い隈が出来てるが…」


仕方無いなと、東山先生は少し強めの薬を持ってきてくれた。


東「本当にちゃんと守れるか?」

智「うん」

東「これは飲みすぎると駄目なんだ。死んじゃうんだぞ?」

智「…その薬で、死んじゃうの?」


そうか、あれを飲みすぎたら死んでしまうのか。
そんな事を思いながら、薬を高く掲げながら持つ東山先生の手をじっと見ていた。


東「大野…?お前、今何を考えてる…?」


その言葉にハッと我に返る。


智「や、それは危ないなあって。気を付けなきゃなって思ってたんだよ」


焦った俺は首をポリポリと掻いた。
その首に、東山先生の視線が止まる。


東「お前、その跡」

智「んぁ?あ、ああ、これ?」

東「まさか誰かに襲われたんじゃ…」

智「ぶっ、ち、違うよ(笑)」


全く心配性だなと、俺は笑いながら話した。


智「相手は女だよ。ヤラれたんじゃなくて、俺が抱いたの」


そうだ、この跡を付けたのは女だ。

何故だか最近俺は抱かれてばかりだった。

だけど俺だって男だ。

男の本能というかなんというか、そんな物は十分に俺の中にあった。

飲み屋でたまたま意気投合して、女も欲しそうにしてたし。

その流れでそのまま抱いたんだ。



やっぱり俺は男なんだなと思ったよ。

名前も知らない女を、なんの感情も持たずに抱けたんだから。




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