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不透明な男

第12章 惑乱


静かに音の聞こえた方に目をやる。
その視線を、ドアの前に立っている男に絡めた。


智「あ…、なんだ、お前もいたの?気配消すの上手くなったね」

B「な、成瀬、お前その髪…」

智「あ、これ?おれのトレードマークはこの明るい髪だよ?」


んふ、知らなかった?と俺は失笑を漏らす。


A「やっぱりお前は、大野智、そうなんだろ…?」

智「んー、ふふっ、どうだろね?」

B「どうだろねってお前、いい加減あきらめろよ…」


あっち向けよ、俺裸なんだよ?と睨み付けるとシャワーで勢い良く泡を流す。


智「あ~さっぱりした」

A「それ、どうした」


俺の腕や首についた引っ掻き傷をじっと見る。


智「だから社長じゃないよ?」

B「じゃあなんで、背中なんて自分で引っ掻けないだろ?」

智「あ、背中も?だから滲みたのか。…夫人だよ」

B「夫人?」

智「今日いたでしょ」

A「なんで夫人なんかと…」

智「俺は道具なんだよ。取引の材料なんだって」


あ?と二人の顔が歪んだ。


智「俺が抱いてやったから、難航してた取引も上手く纏まったでしょ?その為みたいだよ?」

B「あいつそんな事を…」

A「どこまでもクズだな…」


ワナワナと怒りを込み上げたのが分かった。
ぎゅっと握られた拳は骨がバキバキと浮き上がっている。


智「…なんでお前らが怒ってるの。拳、潰れちゃうよ?」

A「だから様子がおかしかったのか?」

智「おれ?なんもおかしくないでしょ(笑)」

B「さっきの奴らだって…、お前、やりすぎだよ」

智「加減したよ。あいつらが弱いだけだ」


そんなのも見てたのかよ。
ホテルを出た時からついて来てたのか。


A「死んだらどうするんだ」

智「生きてたって人を不幸にするだけじゃん」


俺みたいにね


智「だったら死んだ方が人の為でしょ?」


何故か俺は未だに生きてるが


B「どうしたんだよ一体…」

智「別にどうも…」

A「お前そんなんじゃ無かっただろ。さっきの顔つきだって…」


さっきの顔?


智「人殺しの顔してたでしょ…」




そうだおれは人殺しなんだ


お前らの大事な仲間を殺したんだから





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