
不透明な男
第12章 惑乱
智「大丈夫?病院行った方がいいかもね」
ちょっとやりすぎたかな
智「あ、でも警察は無駄だよ?ボイスレコーダーに録っちゃったし」
動かねえじゃん
智「俺犯罪歴無いし、びびって正当防衛が過ぎたって言えば信じてくれるよ」
あ、動いた
智「でも、こんなチビにやられたなんて言ったら、お巡りさんに笑われちゃうか」
勤務の終わった俺は、現地解散でその豪華なホテルを出てきた。
背を丸め、俯きながら家に向かって歩いていた俺に、この男達が絡んできたんだ。
智「…死なないでね?」
俺の拳は紅く染まっていた。
その拳を、絡んできた男の服で拭う。
ニコッと微笑む俺に、地面に這いつくばった男は恐怖を帯びた瞳を向けた。
智「気持ちわる…」
何が気持ち悪いんだろう。
さっきの男達のいやらしい目なのかな。
それとも、俺自身なのかな。
智「また…」
なんだっておばちゃんは井戸端会議が好きなんだ。
まあ、独り暮らしのおばちゃんなんだから寂しいのは分からないでもないが。
智「こりゃ当分終わんねえな…」
俺はくるっと踵を翻し、昔の家に向かった。
今日は気配を感じなかった。
翔はまだ勤務中なんだろう。
その事に胸を撫で下ろしながら地下室に降りる。
智「げ。結構返り血浴びてんな…」
外は暗くて気付かなかった。
拳だけじゃなく、胸や首元にも血痕が飛んでいた。
智「このスーツもう駄目だな」
ぐだぐだと文句を言いながらタンクの水を温める。
この装置は結構利口で、わざわざ水を持ってこなくたって勝手に溜まっていた。
智「まだ浄化できてんのかな…」
とっくに浄化能力なんて落ちているであろうそのシャワーで身体を洗う。
鼻を掠める血生臭い匂いをしっかり流そうと、髪も身体も泡で覆った。
ガチャ
勢い良く泡を流す俺の耳に届いた音。
シャワーの水音に混ざって微かにドアを開ける音が聞こえた。
すっかり気を緩めていた俺は、ゆっくりとその音の聞こえた方向に顔を向けた。
