
不透明な男
第13章 胸裏
智「なんで、そんな顔するの…」
あと少しで泣いてしまうんじゃないかと思った。
智「泣きそうじゃん…」
翔「だって…っ」
ああほら、また。
翔「なんで…? 俺に、殺されても良かったの?」
コクンと頷く俺に、涙を堪えた目を向ける。
翔「どうして…、死ぬなんて、なんで」
智「そうじゃないよ」
翔は俺の肩を掴む。
翔「薬、飲んでるんでしょ? 睡眠薬と、安定剤」
智「それは…」
翔「何があったんだよ。何が、貴方を苦しめてるの…」
だから死にたかったんでしょ?だから、殺されても良かったんでしょと、俺を問い詰める。
智「違うよ…。そう思ってた時もあったけど、そうじゃないんだ」
翔「何が違うの…」
智「翔くんだからだよ。他のヤツに殺されるのは嫌だけど、翔くんならいいやって…」
翔「俺に、恨まれてると思ってたからでしょ?」
智「それもあるけど、それよりも、さ」
何が違うんだ、死のうとした事に変わりは無いじゃないかと、翔は少し俺を睨んだ。
智「なんか、気持ち良かったんだよね」
翔「え…?」
智「居心地がいいって言うかさ、翔くんの手が、おれの首に伸びてきて」
これから死ぬと言うのに、何故か胸が温かくなったんだ。
智「なんか、ふわふわしてさ」
どうしてあんなに温かく感じたのだろう。
智「ああ、気持ちいいなって。このまま死ねるなら、おれは幸せだなって、そう思って」
翔「幸せ…?」
智「だから、他の誰でもない、翔くんに殺して欲しかったんだ」
ついに翔の瞳からポロッと涙が溢れた。
智「だからなんで泣くんだよ…」
翔の濡れた頬を撫でる。
智「さっきも泣いてたじゃん」
声を殺して涙を流す。
その姿が、やっぱり可哀想でならないんだ。
智「泣かないで…」
どうしたら泣き止むんだろう。
智「ふふ、子供みたい」
俺はポンポンと翔の頭を撫でた。
翔に笑って欲しくて、俺が先に笑ってやったんだ。
