
不透明な男
第13章 胸裏
智「来週、いける?」
社長室から出た俺は、ふたりに耳打ちする。
B「決まったのか」
A「ああ、こっちはいつでも手配出来る」
智「そ? んじゃ、よろしく…」
今日も俺は冷や汗をかいていた。
こめかみに滲んだ汗が見つかると、二人は心配そうな顔をする。
B「本当に大丈夫なのか?」
智「ん」
A「こっちはプロだからしくじらないだろうが、お前が心配だ」
智「大丈夫だよ…」
少し青くなった顔の汗を拭っていると、二人は顔を見合わせた。
B「よし、ちょっと社長に近付いてみるよ」
A「そうだな」
智「え、無理でしょ…。あと1週間だよ?」
A「それだけあれば十分だ」
俺の方は任せられないが、そっちならコイツの方がいけそうだとAは言う。
智「や、でも怪しがるんじゃない?」
A「俺の指示通りに動けば大丈夫だ。それに、コイツの腕は社長も認めているしな」
智「そうなの…」
にわかには信じられない。
だけど自信満々にAは言う。
A「何が一番いいって、コイツの誠実過ぎない所がいいんだよ。コイツの不真面目さが目に留まる筈だ」
智「なにそれ」
いいか、お前は人に対して誠実過ぎちゃいけない。だけど、社長には抗うな。
社長に対しては忠実でいろと、小難しい事を言ってのける。
B「あ、ああ。ま、任せろっ」
智「不安しかねえ…」
俺はコイツをバカだと思うんだ。
そんな奴にそんな大事な役が出来るのか?
ってかそもそも社長の懐に潜り込めるのだろうか。
B「安心しろ。俺が守ってやる」
智「ああ、はい」
なんだその返事、信用してないなと言うが、そりゃそうだろう。
そのまぬけ面見て信用する奴が居るなら見てみたい。
というか、俺を守るなら真面目にやってくれ。
お前が居ないと俺は
どうなっちゃうか分からねえんだぞ
