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不透明な男

第13章 胸裏



兄「お前は前を向いてるんだろ?それなら、俺だって進まない訳にいかないからな」

智「え?」

兄「顔付きが変わったって言っただろう。見りゃ分かるさ」


千里眼の持ち主か。


兄「それにもう、最後なんだろうし…な」


俺の心を悟った松兄ぃは、寂しそうな顔こそ見せるがしっかり背中を押してくれる。


兄「まあちょっと激しかったか(笑)」


ほら、ちゃんと笑ってくれるんだ。

頑張れなんて言わない。

だけど、その笑顔で力強く俺を押してくれる。


智「ほんとだよ。彼女には手加減しなきゃ駄目だよ?」

兄「そんなにか?」

智「窒息して死んじゃうよ」

兄「…それはヤバいな」

智「やったのそっちだからね(笑)」


あ、やっぱ俺はバカか。
いとも簡単に話に呑まれたじゃねえかよ。

全く松兄ぃには敵わないな。

んでも、感謝はしても足りない位だよ。


智「松兄ぃ、ありがと」


まだ少し不安だったけど、あんなの言われちゃ頑張るしかないだろう。

俺もちゃんと前を向く、よし、大丈夫だ。







これで、世話になった人には全部会えたか。

いや本当はね、こっそり引っ越そうかと思ってたんだ。

だけど急に俺が居なくなったら、また心配するんじゃないかと思った。

その光景を思い浮かべたら、ちょっと胸が苦しくなったんだよね。

だったらちゃんと挨拶しとこうかなって。

そう思って皆に会ったのに…。

何故だろう。

まだ胸が苦しいんだ。

きゅっと締め付けられる感じがして、息苦しくなる。

これで俺はちゃんと前を向ける筈だったのに、何かが俺の胸を燻らせる。


スッキリする筈だったのに、もやもやが止まらない。


ひとつ思い当たる事と言えば、翔だ。

だけど、もう着いてくるなと俺が言った。

なのに俺からなんて会いに行ける筈もない。



それに翔は只のストーカーだろう?

世話になったと言えば、なんだかんだしてもらったけれど。

だけど、わざわざストーカーに挨拶しに行く必要なんて無いだろう。


それに、俺の事が好きだと言ったんだ。

そんな事を言われちゃ

それこそ会えないだろうが。



なんであんな事を言ったんだ。



翔のバカめが。




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