テキストサイズ

不透明な男

第13章 胸裏



兄「智…」


俺の頬を撫でて涙を拭うと、少し顔を持ち上げた。


兄「寂しそうな顔はしてるが、なんだか少し顔付きが変わったな…」

智「え?」

兄「前は、今にも消えてしまいそうな、儚い顔をしていたけど…」

智「ふふ、そんな顔してた?」

兄「だけど今は、寂しそうな顔こそしてるが、辛そうな顔はしてない」

智「松兄ぃ」

兄「良かったよ」


頬をすりすりと撫で付けると、松兄ぃはそっと顔を近付けてくる。


智「ふふ、だから駄目でしょ。彼女に悪いよ」

兄「まだ彼女じゃねえよ。それに」

智「それに?」

兄「もう会えない、なんだかそんな気がしてな」

智「ま、松に…」


ほら、だから怖いんだよ。
なんで分かっちゃうんだろうな。

駄目だよとか言っても、やっぱり俺も拒めないんだ。
それだって松兄ぃは分かってるんだ。


智「んん…、ふ」


熱いのに優しいんだよな。
撫でる様に俺の口内を愛撫するんだ。


兄「やっぱりお前は特別なんだ」

智「んぅ…」

兄「だけど離してやらなきゃならないんだろ?だったら」


お前も俺に入ってこいと、俺の舌を誘う。
俺は導かれるままに、素直に松兄ぃの口内へ入った。


兄「これくらい許せ。俺も、しっかり前を向くから」

智「ん、ぁ…」


駄目だ、脳が溶けそうだ。
そりゃそうか。何も知らない俺を、イチから慣らしたのは松兄ぃだ。
俺が心地好くなるポイントなんて知り尽くしてる。


智「んぅ、ま、松に」

兄「ん?」

智「も、駄目だ、よ」


少し荒い呼吸をつきながら松兄ぃを引き離す。
すると松兄ぃの口から、チッと音がした。


智「…今、舌打ちした?」

兄「いんや」


絶対しただろ。
ちょっと残念そうな顔してるじゃないか。
俺の理性が働いて良かった。
もう少し酔ってたら、そのまま押し倒されても抵抗しなかったかもしれない。


智「浮気者が…」

兄「はぁ?」

智「また彼女にフラれても知らないからね?」

兄「け、けじめだけじめ」


上手い言い訳で言いくるめようとしてるな。

なんだかんだで話し方に説得力を持たせるんだ。

それで俺はコロッと騙される。



だけど、今日はそうは行かないぞ。



俺だってバカじゃないって所、見せてやる。




ストーリーメニュー

TOPTOPへ