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不透明な男

第15章 嘘



俺は怖かったんだ。

翔に不幸が襲うんじゃないかって。

俺の黒い渦に翔が飲み込まれる夢。

あれが現実になるんじゃないかって。


でも大丈夫。

そんな事は起こらない。

何故なら俺は、翔なんて好きじゃないから。


翔「持つよ」


そう脳に教え込んで毎日を過ごしてきたのに。


智「大丈夫だよ。翔くんの荷物の方が凄いじゃんか(笑)」


なのに俺につられて笑う翔が目の前にいる。


智「それにおれ、たぶん翔くんより強い」

翔「ははっ、そうかも」


胸が苦しいな。
こんなに楽しいのに。


智「持ってあげようか?」

翔「大丈夫だよ。俺だって鍛えてるんだから」


締め付けるんだよな。
きゅうって、心臓が小さくなったみたいだ。


智「あ、アパート見えてきたよ」

翔「ふふ、知ってる。さっき行った」

智「え? なんで?」


キョトンとする俺の顔を、愛しそうに見つめるんだ。


翔「住所を辿ったらアパートに着いたんだよ。なのに貴方居ないからさ」

智「あ…」

翔「本当、会えて良かったよ」


俺を探すんだ。
何処にいたって翔は、俺を見つけるんだ。


智「よく探せたね…」

翔「執念だよ(笑)」


ほらね。
こんな事言われちゃ離せなくなるだろ。

ていうか、離したくなんて無いんだ。


翔「ここって英語圏じゃ無いんだね」

智「英語で通じる人もいるよ?」


こんな遠い地まで追ってくるんだぞ。


翔「言葉が通じなくてさ、大家さんに追い出されたんだよ(笑)」

智「ふふ、結構お年寄りだからね。英語は分かんないみたい」


追い返されてもめげないんだ。


翔「…貴方、英語話せるの?」

智「ううん」

翔「今までどうやって過ごしてたの…」


大きな心配から小さな心配までしてくれるんだ。


智「気持ち込めればなんとでもなるよ」

翔「嘘でしょ」


目を見開く翔の顔も好きなんだ。


いつも見てたいと思ってしまうのは、仕方の無い事だろう?






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